桐生模型学校 その3 - 模型・ホビー業界の取引用語
目次
メーカー・問屋・販売店の取引における用語
前回は模型・ホビー業界がメーカーを頂点にしたヒエラルキー構造であることを説明しました。次回は具体的な取引がどうなっているのかを述べるいいましたがその前にいくつか用語の解説を行います。この用語は模型・ホビー業界に特殊というわけではなく一般的な商取引でも使用していますのですでにご存じの方もいると思います。ただ商売をしたことがないという方もいると考えて一度整理しておきます。
1.定価(希望小売価格)
正価格あるいはメーカー希望小売価格ともいいます。厳密な定義はこの講義の目的ではないので省きます。
希望小売価格(きぼうこうりかかく)とは、商品を製造するメーカーや輸入する代理店など、小売業者以外の者が、自己の供給する商品について設定した販売参考小売価格。 メーカー希望小売価格とも呼ばれる。
wikipediaより
ここではWikipedia通り定めておきます。簡単にいえばメーカーが決めた販売店が消費者へ販売する価格のことです。あくまでも参考価格なので店舗は定価販売を厳守する必要はありません。まれに「定価で売れ」といってくるメーカーもありますが模型・ホビー業界の狭さと面倒くさいのでいうことをほぼ聞いているようです。「お願い」という遠回しの言い方をしてくるところもありましたね。
希望小売価格という言い方よりは「定価」であったり上代(じょうだい)または単に上(うえ)という呼ばれ方をされるときもあります。まれにオープン価格の商品があっても参考販売価格を添えて案内がきますので模型・ホビー業界はすべからく定価ベースで商売をすすめます。「定価」を用語のトップにもってきたのはこの「定価」が今後の取引の中心となる数値だからです。ここではすべて「定価」で呼称を統一します。※最近では転売屋もいますので定価を上回る価格を「プレミアム価格」「プレ値(ぷれね)」と呼ぶ。
2.掛率(かけりつ)
掛率とはメーカーあるいは問屋が卸をする際、定価に対して何パーセントで販売するかを表す率のこと。類義語で卸値、仕入れ値があるがこちらはいくらで販売するかを金額であらわしたもの。
例)
問屋「定価1800円です」
販売店「掛率は?」
問屋「60%です」
問屋「定価1500円です」
販売店「卸値は?」
問屋「900円です」
ここから少しばかり掛け算と割り算が必要になりますが大丈夫ですよね?ではさきにすすみます。
3.歩引き(ぶびき)
一般的な用語ではなくBtoBのみに使用される商業用語です。ただし模型・ホビー業界での「歩引き」は単なるリベートのことをいい、本来の「歩引き」とは少々異なります。もともとは販売した会社が支払期限前に支払ってもらう代わりに代金を割り引きするという意味です。なぜか模型・ホビー業界ではリベートのことを「歩引き」と称します。昨今では歩引きは敬遠されがちで昔から取引があるところに慣習として残っています。例えば店舗では問屋から通常60%の掛率で卸してもらい、請求は2%の割引されたりします。
例)
問屋から販売店への掛率 60%
歩引き 2%
→ 最終的な仕入れに掛率は 60% x (100%-2%) = 58.8% となる
歩引きの考え方が昔ながらの手法で現在は敬遠されているのであれば重要な用語にならないはずですが問屋・販売店間であれば重要ではありません。しかしメーカー・問屋間であれば昔から取引がありなおかつ新規参入の会社もないためほぼ固定となります。歩引きは既得権になりがちなので昔販売が好調だったころの問屋はかなりの歩引き率をもっているといわれています。以前、極秘資料をみせてもらったことがありますがメーカー・ジャンルによってまちまちですが3-5%ぐらいの幅でした。歩引き率を知ることができれば問屋の実質的な原価がわかることになりますので問屋内でも数値を知っている人は極めて少なく極秘扱いになっているはずです。
またメリットとしては荷物を違うところに送ってしまった場合、荷物に伝票が入っているので他社にいくらで卸しているかがわかってしまうのを防ぐことができます。つまり伝票に掛率52.25%と記載せずに伝票上は55%としておいて歩引き率を5%にしておけば実質仕入は52.25%になります。
歩引きは昔ながらの商慣習なので新興のメーカー、とくにフィギュア・ガレージキットメーカーは最初から歩引きの考えがありません。中には撤廃するところもあります。たしか2018年ぐらいに卸掛率が一斉に上昇したバンダイホビー事業部の商品(ガンプラなど)は掛率を変更したのではなく歩引きをなくしたといわれています。よって昔から取引をしている(つまり歩引き率が高い)問屋の掛率の上げ幅が一番大きかったのを覚えています。
販売店でも掛率交渉すると歩引きの話がでる可能性があります。掛率を変更するか歩引きのほうが良いのかはさっと計算できますので頭に入れておきましょう。
4.粗利(あらり)あるいは粗利率
ここは取引内では使われませんが粗利を計算することは商売上、重要になります。模型・ホビー商品が定価で販売できれば計算は簡単ですが販売店の大半は割引をしています。問屋からの掛率60%の商品を定価から2割引きをしたら粗利(=儲け)は何パーセントでしょう?
正解は25%です。
前に勤めていた会社の卸売営業マン・M君の名言。この会社では各担当が卸掛率を決めていいというルールがあったのですが仕入掛率60%の商品を一見さんには72%で卸していました。たまたま数がまとまったのか質問にきまして
M君「卸価格を1割引いたら儲けは1割ダウンですよね?」
私「えっ!」
M君「えっ?」
というやりとりがありました。当然このルールは卸部門の抵抗もありましたが数年かけて撤廃することになりました。ちなみに正解は下記の通り。
定価に対して60%掛率の商品を72%で売った場合の粗利(儲け)率は
卸販売価格の原価率 60% ÷ 72% = 83.33%
販売価格から原価率を引く 100% – 83.33% = 16.67%
となります。M君が72%からさらに卸掛率から10%引いた場合
卸販売価格の原価率 60% ÷ (72% x 90%) = 92.26%
販売価格から原価率を引く 100% – 92.59% = 7.4%
となり、儲けの半分はなくなります。(彼は儲けのうちの1割減ると思っていたようで・・・)
M君のようにならないためにも粗利率をしっかり計算できるようになりましょう。定価・掛率(または原価)・販売価格の3点があれば導けます。この考えは自分たちの儲けだけでなく、相手がどのぐらいの利益をとっているかを見極めるポイントになりますので重要事項です。自虐的に「模型・ホビー業界の人は掛け算・割り算ができない」と揶揄されます。というのも掛率の変動が5%刻みで動き、収益率を計算していないことが多いからです。
5.買取(かいとり)あるいは買切(かいきり)
買取とは卸してもらった商品の返品を認めないという意味です。模型・ホビー業界は買取が原則です。当たり前じゃないかと思う方もいるかもしれませんが委託販売や書店の返本制度など仕入後に返品できる形態は意外と存在します。支払いサイクルも30日ぐらいなので仮に商品を1500万で仕入て新店をオープンすると翌月には支払いをしなければなりません。(新店の場合、多少の融通はできますが建築業のような120日とか1年などの長期は不可)
なかには問屋担当が勝負にでたり、在庫が余っているので売れない場合は後日返品ということもありますが店舗運営の根幹をなすことはありません。よって常に仕入れは真剣勝負です。問屋側も同様なのでメーカー返品は原則不可となっています。ここで他業種の買取に慣れていない方が返品の話題をだすとかなり警戒されますので注意しましょう。
まとめ
今回は取引にあたっての基本用語
1.定価
2.掛率
3.歩引き
4.粗利
5.買取
を解説しました。長くなりましたのでいったんここで第3回を終了し、次回につづきます。