桐生模型学校番外編 書評 日本プラモデル世界との激闘史

日本プラモデル世界との激闘史

渡良瀬川冬季ニジマス釣場が実質的に正月早々に終わり、3月の渓流解禁まで釣りはしばらくお休みです。管釣りとかもあるけどお財布に優しくないので久しぶりに桐生市立図書館へ。いつもは郷土史とかあさっていますがプラプラと歩いているうちに「日本プラモデル世界との激闘史」という本がありましたので今回はこれをとりあげます。

日本プラモデル世界との激闘史 著・西花池湖南 河出書房新社刊

第1章 「遊べるギミック」全盛の時代に頭角を現した日本メーカーの興亡
第2章 タミヤの「動かない模型」革命で日本が世界模型標準スケールを確立
第3章 バンダイが「ガンプラ」が日本模型界を絶頂に導いた
第4章 王者日本を照準に定め中国系メーカーの追撃が始まった
第5章 メーカーの多極化で予測不能のカオス世界へ

2019年11月15日 初版発行
著者 西花池湖南
発行所 河出書房新社
企画・編集 株式会社夢の設計社

目次と奥付はこのとおり。ちなみにサブタイトルは「アメリカを駆逐した日本ブランドに、新興勢力が強襲し始めた!」とかなり刺激的なフレーズがついています。いままで数多くの模型本がでていますが新興勢力(中国メーカー)が台頭し始めてからのものは極めて少ないんです。この本のコンセプトは「模型通史」に該当すると思われます。

模型本の分類

模型をあつかった本は数多くありますが以下のように分類されるとおもいます。※あくまでもプラモデルに限定してすすめています。

  1. 歴史、通史
    模型、プラモデルに関する歴史をたどるもの
    しかも時期によってさらに細分化される場合があります。
    • マルサン時代(プラモデル創成期)
    • タミヤの歴史
    • バンダイ(ガンプラ)の歴史
    • 海洋堂(ガレージキット・ワンダーフェスティバル)もの
    • カタログ的なもの(あるメーカーやブームに焦点をあてたもの)
  2. 資料に関するもの
    模型製作にあたり参考にする「〇〇写真集」のようなもの。スケールものといわれる飛行機・戦車・艦船・車のみならずアニメの設定集もこの部類でしょうか。最近はネットにおされて出版も減ったのではないかと思われます。この分野は模型業界にかかわりのある出版社のみならずまれに単発で素晴らしい本を出す場合もありました。洋書もここに該当ですね。
  3. 作品集・画集
    プロモデラーが作った作品集。絵画でいえば画集に該当するもので「凄い」と思う反面、「自分にはできないなー」と痛感させられる本。また日本のプラモデルはボックスアートも作品と認知されているのでボックスアート画集もここに分類されるでしょう。
  4. ハウツー本
    いわゆるテクニックを教える本。初心者・ビギナーから超絶技巧までさまざまです。プラモデルやツールなどの技術革新や購入層がいれかわることで周期的にリニューアルされます。

「日本プラモデル世界との激闘史」はプラモデルの歴史をたどるものでプラモデル創成期のマルサンから現代の模型までと全般にわたっているのでどうしても簡単な内容で終始しています。しかも新興勢力(中国メーカー)の台頭を語るには日本のプラモデルの歴史をさらっとおさらいしておく必要がありますので三分の二は日本メーカーの内容にならざるを得ません。

模型の歴史に関する本の特徴

模型に関する本を

・マルサン時代(プラモデル創成期)
・タミヤの歴史
・バンダイ(ガンプラ)の歴史
・海洋堂(ガレージキット・ワンダーフェスティバル)もの
・カタログ的なもの(あるメーカーやブームに焦点をあてたもの)

このように分類しました。

世の中に広く出回っているのはマルサン~タミヤの時代までのものが圧倒的におおく、小松崎茂氏のボックスアートの話しなどいわゆる古き良き時代を懐かしむテイストが強い感じがします。ガンプラ以降はキャラクタープラモデルという新たなジャンルやガレージキットなどさらに幅が広くなっていきますのでいわゆる「プラモデル」を通史として扱うにはマルサン~タミヤの期間が一番やりやすい時期と思います。

ただタミヤのものに関しては「タミヤ模型の仕事」が公式文書としてでまわっていますが著者が田宮俊作氏ご本人なので脚色している可能性も否定はできません。これはうそをついているということではなくどうしてもプラモデル業界のような狭い業界はメーカーを調べるにもメーカーの創業者や勤務されているスタッフからの情報のためどうしても誇張や忖度が発生する可能性が存在するという意味です。中には「捏造」といわれるものもありますね。通説を覆すにも情報ソースがメーカーが握っている場合が多く困難を極めます。

模型業界に造詣が深い出版社(主にホビージャパン、モデルグラフィックス、モデルアートの3誌)は特にその傾向があります。ドラゴンの作例記事で「タミヤを超えた(※詳しくは覚えていませんがこんなフレーズだった)」という表現をしたらタミヤからクレームがきて翌月の広告がなくなるという事件がおきれば忖度せざるを得ませんよね。

良かった点

著者が業界関係者ではないためか文体自体にはあまり忖度は感じませんでした。よって新興勢力である中国メーカーも素直に評価している点はグッドです。いままでのプラモデル通史は著者の思い入れなどが溢れすぎてへんなベクトルをもっていることが多々ありますがこの本はそのようなものは感じませんでした。

惜しかった点

・写真がすくなすぎる
 模型の場合、どうしても特定の商品をかたることがありますが資料として用意できないケースが多々あります。その場合、テキストのみになるのですがやはり訴求力が弱くなってしまいます。

・日本プラモデルメーカーの歴史が一般論だった
 この本は冒頭から「日本初のプラモデルが送り込まれる。マルサン商店の「ノーチラス」だ。」と書いているので一般的な通史通りです。「ノーチラスと言われている」と書いてあればリサーチは十分と思うのですがこのあたりはあまり業界内でもあえて話題にはしないのでしかたないでしょうね。(※最近では日本初のプラモデルはノーチラスではない説が濃厚)巻末にある参考文献もいわゆる「吾妻鏡」的なものしかないので少々不安になります。それゆえ日本プラモデルに功績を残した「エルエス」や「オオタキ」、「ニチモ」あたりがでてこないのは文献がないからなのでしょう。

・海外メーカーの情報がすくなすぎる
「数々のメーカーの盛衰をよみとく」とまえがきに書いてあり、日本のプラモデルの黄金時代はすでにおわり「衰」に向かっているという論調なのかと思いましたがそこまで断定はしていませんでした。単なるヨイショ執筆ではなく、仮説的なものを立てることは良い視点と思います。しかしながら「盛」に向かっている海外新興メーカーの情報が少なく、月刊誌記事やメーカー輸入代理店の営業マンからの話しかなという印象です。とはいえ、現地メーカーへ直接取材に行くというのは難しいですよね。

最後に

プラモデルに興味がない人がこの本を手に取るかはわかりませんがあまりどっぷりつかっている人よりはライトユーザーが手っ取り早く歴史を網羅することはできる内容化と思います。特に海外メーカーの話しは情報量がすくなくても他があまり話題にしませんので現在の模型業界の流れをつかむには良い本だと思います。国内模型の歴史については一般的にいわれていることという部分を頭にいれておけばよいかなという印象でした。とりあえず手っ取り早くプラモデルの歴史をつかむには下記の本をおすすめしておきます。

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