桐生模型学校 その13 - 店舗からみたチャージバック
目次
チャージバックとは
チャージバックとはクレジットカードの不正利用や商品の未発送、届いた商品の破損といった理由でカードホルダー(カードのユーザー)支払いに同意しない場合、カードイシュアー(クレジットカード発行会社)が売上を取り消してユーザーに返金する仕組みです。本来はカード利用者を保護する仕組みなのですが近年ではチャージバックといわれるとクレジットカードの不正利用を指すことが多いと思います。
今回のテーマは通販には必須ともいえる決済方法のクレジットカードにおけるチャージバックについてです。チャージバック関連の記事はユーザー側からの者が多いのでユーザー視点ではなく店舗側からの視点で述べていきます。
非対面式取引のチャージバックの負担は加盟店(店舗)にある
クレジットカードの加盟店になる場合、対面式と非対面式の2通りがあります。対面式は実店舗でイメージできるでしょう。非対面式とは簡単にいえば通販をさします。対面式の場合はたとえ偽造カードであってもチャージバック(不正利用)が発生してもクレジットカード会社の負担となります。しかし通販のような非対面式の場合は売上金から加盟店(店舗)が負担することになるのが特徴です。
初めてネット通販をする場合、このチャージバックの仕組みが理解できず戸惑うことが多いと思います。具体的にチャージバックの流れは下記のような感じです。
具体例)
- 通販で注文がはいり、在庫があったので発送
- 後日、クレジットカード会社から連絡があり不正利用が発覚
- 売上金を返金(一般的には次回の売上金から相殺される)
2の段階で売上に関する注文書・発送記録などで反証するなどありますが簡単にいうとこうなります。経験からいえばクレジットカード会社から利用明細の提出(注文書など)を求められた場合、99%はチャージバックであり、その99%は返金になってしまうと思われます。つまりチャージバックが発生すると商品は盗られた(送料も負担)うえに代金の返金を求められるという店舗にとっては悪夢のような制度なのです。
チャージバックの被害額
クレジットカードの不正利用額は2019年で274.1億円、2020年は253億円となっています。(出典 一般社団法人クレジットカード協会)これがどのぐらいの規模かというと2020年の特殊詐欺、いわゆるオレオレ詐欺の類、の被害額が285億2千万円とほぼ拮抗していることから被害の大きさがわかるでしょう。でもテレビで特殊詐欺の報道はあっても「今日のチャージバックの話題です。」という内容はみたことがありません。一般に人には無関係な内容であることやクレジットカードの仕組みを理解しないとピンとこないのでニュースになりにくいのでしょう。
チャージバック増加の背景
チャージバック被害額はEC事業の拡大とともに拡大しています。しかし被害額の増加は
- クレジットカードの承認・与信=正しいクレジットカードという誤解
- 個人売買が簡単になったため換金しやすい貴金属などからすべての商品が対象になった
という背景があります。どの通販プラットフォームあるいは決済代行会社などは注文時にクレジットカードの承認・与信を行いますがクレジットカード会社からいわせると「カードが使えることを確認するだけでカード利用者本人かどうかは確認していない」という点が重要です。たとえば私が誰か知り合いのクレジットカードを借りて商品を購入したときでもその知り合いがこの請求は不正であると主張すれば返金されます(試したことはありませんが)。あくまでも利用者の善意にのっとったきわめて簡単な仕組みで成り立っているというわけです。
またひと昔前は仮に商品をタダで入手しても個人で売買するハードルが高かったため貴金属・宝石・クルマやバイク部品・アクセサリーなど換金性のあるものに集中していました。近年は個人でも簡単に転売できる仕組みになったためホビーも含めてありとあらゆる商品が不正利用の対象になっています。「ウチの商品は大丈夫」という思い込みは危険です。
チャージバックの期限 ーコンボ技の悪夢ー
チャージバックの不正利用は万引き同様にゼロにはできないのはわかっているので売上の比率からみれば大したことはないと感じる方もいるでしょう。問題なのはチャージバックが判明するのに時間がかかるという点にあります。クレジットカードの国際規約によると売上日から約120日間がチャージバックの期限と認められています。ピンとこない方に説明を具体的な例をあげると下記のようになります。
- お客さんAが5/1に3万円の注文
- 同じくお客さんAが5/15に5万円の注文
- さらにお客さんAが6/5に9万円の注文
※いずれも商品は発送済みとする - 8/20にクレジットカード会社から5/1、5/15、6/5の合計17万円の売上に対するチャージバックの連絡がくる
つまり不正利用は請求されたその日にカード保持者(カードホルダー)が不正利用に気が付いてカード利用を止めるというわけではないためかなり過去にさかのぼってチャージバックが発生します。そのため1回あたりの不正利用金額はすくなくても合計金額でかなりの金額になってしまいます。たいていの場合、一度カードの不正利用が行われて商品が届くとありがたいことにかなりの確率でリピーターになってくれる傾向にあります。これがチャージバックの恐ろしさになります。
チャージバックの対処法・防衛策は?
はっきり言ってチャージバックを防ぐ手段はありません。本気で不正利用しようと思えばいくらでもできてしまう決済がクレジットカードです。クレジットカード会社のリスクがまったくないため業界として問題視はしても対策を講じないというのが現状だからです。チャージバックを受けた加盟店(店舗)に対して被害者ではなく加害者であるような言動・対応をするところすらあるぐらいです。結局のところクレジットカード会社や決済代行会社にチャージバック対策がないので加盟店でも手の内ようなないというのが現状です。
仮にクレジットカード会社や決済代行会社にチャージバック対策を質問すると「セキュリティコード」と「3Dセキュア」導入をすすめてくるのが関の山ではないでしょうか?セキュリティコードとはクレジットカード裏に記載されてている3桁の数字のこと。 3Dセキュアは本人認証システムですが普及率が低く、サイトで注文しようと思ったユーザーの離脱率が高い(いわゆるカゴ落ち現象)。また海外カードには対応していないなど効果の割に直接的な売上減少のリスクがあります。その他にもチャージバック保険なども一部あるようですがやはり海外カードは対応していないなどの欠点があります。
システム的な対応では限界があるため「金額の高い注文やあやしいと思った場合は確認してください」といわれることもあります。いくら以上が高い金額なのか?あやしいとはどういうことなのかも一切いわずに店舗側でやってくださいということです。仮に注文者がカード本人か確認を依頼しても結果が返ってこない場合のほうが圧倒的に多いでと思います。結局、ECサイトという生産効率をあげてナンボの業態にもかかわらず
- スタッフが電話で確認する
- カード会社へ照会をかける
という手間が発生します。しかもすべての注文に対応するわけにもいかないので一定の金額や場所などで基準を設けるしかないようです。一部のシステム会社等で不正検知システムを開発しているようですがこれも100%防げるわけではありません。
クレジットカードを決済手段に選ばないという最終手段はあります。他の決済手段がなかった時代にくらべて相対的に代引きと同様に店舗でのリスクがかなり高い決済方法になってきていると思います。クレジットカードは圧倒的にユーザー側の利便性はいいためなかなか他の決済手段が浸透しないという状況ですが思い切って通販でのクレジットカードを使わないというのも選択肢のひとつかもしれません。