桐生模型学校 その14 - 問屋のガンプラ転売問題 前編
大阪の問屋が実は転売をしていたということでここ数日話題になっているようです。ただでさえ品薄のガンプラを小売店にまわさず自ら複数のショップ名で高値転売をしていたという疑惑でSNSでは卸売業者が名誉棄損で裁判をおこすぞと書き込みがあったり、訴えられそうな個人は裁判費用を賄うためクラウドファンディングで支援を募ったりと収束する雰囲気がありません。ただ騒動をみていると疑問に感じる点もあったりしましたのであらためてガンプラ転売について述べていきたいと思います。
ただし業界の事情については引退してから2年近くたっていますので変わっているかもしれない点はご留意ください。
目次
メタルボックスは問屋なのか?
小売店からメーカー・問屋機能の追加
まず疑問に感じたことは疑惑にあげられているメタルボックス(以下MBと称す)が問屋なのかという点です。仮にMBが転売をしていたとしてもMBさんは問屋じゃないと思っています。すでにそのような書き込みがあり、店舗写真から問屋だと判断しているようですがもう少し説明がいると思っています。
実は業界にいたときはMBさんとは取引がありました。大半の商材は既存の問屋から仕入れていましたのでMBさんのオリジナル商品での取引でした。取引していた当時は問屋という認識ではなく小売店のメーカー部門といった印象です。
最初は小売店として創業したがのちにメーカー部門を立ち上げるというケースは少なくありません。例をあげるなら
- コトブキヤ(寿屋) ー 玩具店として創業、たしかひな人形なんかもあつかったはず。店舗はいまも営業中
- ウェーブ ー 模型店ラークとして創業
- ボークス ー 模型小売店としてスタート
- 海洋堂 ー 貸本屋の片隅から模型販売
小売店をやっているとある程度で店舗売上のキャパが見えてきます。その後は商材を広げる・店舗面積を増やす・新店をつくる・通販をはじめるなどを考えると思いますがその中にかならず自社製品開発があがることでしょう。自社製品開発をすると当然販売をしなければならないため問屋機能を持ち始めるというのは自然の流れになります。自社製品だけだと営業力がなければ他社製品を卸すことも考えられますし、自社店舗でも利益率もあがるので一石二鳥というわけです。
メーカーとの直接取引はできるのか?
結論からいえば取引をしてくれるメーカーと断ってくるメーカーがあります。もちろん一定の量を注文するということが前提、たとえばカートン単位で購入するとか、新製品は必ず買ってくれるとか、ですが組織が小さいメーカーや新興メーカーは比較的OKをもらえる場合が多かったと思います。
逆に一部上場会社(バンダイやタカラトミーなど)、タミヤなどはよほどのことがない限り新規で直接取引することは不可能です。というのは流通形態がかわるだけで直接取引をすることによって販売総数がさほどかわらないにもかかわらず与信管理などのリスクのほうが大きいからと思われます。海外のような振興市場で取引をあらたに開始することはあっても日本国内において新規に取引をするとは思えませんのでMBさんがガンプラを直接卸してもらっているとは少々考えにくいと判断しています。
MBはなぜ問屋といわれてしまうのか?
正確にはメーカーと直接取引をしているところもあるし、他の問屋から仕入れているという両方の取引で商売をしていると思います。玩具やフィギュアは直接取引でガンプラは問屋から入手が正しい見方ではないでしょうか?なので見た目は問屋にみえてしまうけど内実は少々異なるというのが正しい見方だと思っています。
MBからガンプラを仕入先としているお店ってあるんでしょうかね?そうならたしかにその店には1個も入荷しないのでしょうけど。
問屋が小売をするケース
問屋が小売をするケースは案外あります。ガンプラベースのようにメーカーが直接売っていることもありますし、タミヤプラモデルファクトリーのように割引しているところもありますからなんでもありじゃないでしょうか?(※タミヤプラモデルファクトリーは運営は別会社という言い分はありますけどね・・・)
ガンプラの流通について(メーカー・問屋・小売店)
この騒動の下記のような書き込みがあり、疑問に感じました。
- ハピネットがガンプラの一次問屋で残りは2次問屋であるという点
- ヨドバシカメラはバンダイホビーと直接取引をしているという点
ハピネットはもともと玩具問屋でありホビー問屋ではありません。玩具の売り方とプラモデルの売り方が異なるため問屋の性質も異なってきます。玩具はだいたい1年周期で新商品の入れ替えがあります。仮面ライダーや戦隊ヒーローのように番組連動の商品を連想すればわかりやすいと思います。次の番組が始まる前には旧商品の大半は処分され売り場からは撤去されていて不思議に感じたことはないでしょうか?プラモデルはその逆で30-40年前のものでもいまだに棚にあるなど定番、塗料や工具などをそろえるように商品在庫に対する考えは明確に異なります。
ハピネットさまともお付き合いはありましたが玩具市場のほうがおおきいせいかプラモデルの販売については得意ではないように感じます。すでにバンダイホビー事業部と取引があるホビー問屋から仕入先をハピネットに変更というのはこの2-3年の間に行われたとは思えません。よってハピネットもホビー問屋も1次問屋と思うのが正しいと思います。
ホビー業界での2次問屋はあることはありますが極端に力をなくしますので存在感はないとおもって大丈夫です。
大手販売会社とメーカーは直接取引をしているという考えは確かに一般的ですがホビー業界では不文律として問屋を通すというものがあります。昨今問屋不要論なるものが声高に叫ばれていますが問屋の機能として下記のものがあると思っています。
- 与信管理
- 配送機能
- 金融機能
- その他(情報、数量調整)
与信管理は取引した会社が倒産しないかどうかという問題。配送機能はいろいろな商品を小分けにしたり、他社製品とあわせて送ることによってトータル的にコストを下げるというもの。与信と配送は問屋の一般的な存在意義としてあげられるものです。
金融機能とは簡単にいえばお支払いのこと。商品は買切りのため例えば新店を立ち上げた場合、支払いを半年後にしてもらうなど便宜を図ってもらうことです。最近はそのような余力のある問屋はほぼ皆無になってしまいましたが・・・
問屋不要論の中で実はもっとも重要なのは「その他」だと思っています。販売店が大手だったとしても、むしろ大手だからこそ問屋の重要性が増すのです。どういうことか具体的な例をあげるアマゾンがホビーアイテムを取扱いをしたときにフィギュアメーカーの一部が直接取引をしたケースがあります。新商品を発表してアマゾンの希望数を受注したのですが発売前にネットでの価格がドンドン下がり、発売日にはたたき売りされてブランドイメージを損なうということがありました。メーカーとしては想定外の事態ですがアマゾン担当からしてみれば在庫数でシステム的に価格が変動するのは当たり前で両者で齟齬がおきます。業界慣習の違いが必ず存在しますので問屋が間にはいるのがホビーでは一般的になっているわけです。
実際の仕入数については販売店とメーカーが直接交渉して決定したりするケースもありますが取引はあくまでも問屋を通すことになっていますね。
前編まとめ(後半に続きます)
今回は一連の騒動からおもに店舗・問屋側の視点で語りましたがそもそもの発端についてはメーカー側の視点もかかせません。長くなりましたので別記事で上げようと思います。
ここまでの騒動を私なりにまとめると
- MBさんは問屋も小売店の両方の側面がある(ガンプラは小売部門の担当と推測)
- 屋号は違うがMBさんと同じ住所でプレ値で販売している業者がある
ということからガンプラ転売に苦しんでいるユーザーがこの転売騒ぎは流通構造的な問題であると思い込んでしまったというのが実情と思います。仮にMBさんがバンダイから直接仕入れをしていても全体の量からみて微々たるものではないでしょうか。むしろガンプラ転売問題の根源であるバンダイが問屋をスケープゴートにしてしまうのではないかという恐れのほうが強いですね。