講談社「僕はビートルズ」文庫版全6巻 かわぐちかいじ x 原作・藤井哲夫

講談社「僕はビートルズ」文庫版全6巻

「僕はビートルズ」文庫版全6巻
講談社 発行
2010年8月~2012年4月講談社モーニングKC刊行
かわぐちかいじ x 原作・藤井哲夫

桐生市立図書館で借りてきたわけですが最近の図書館は漫画も多少なりともあるようでタイトルを見て何となく借りてみました。というわけで今回は桐生の郷土史は関係ありません。ちなみに私はビートルズ世代でもなく、ファンでもありません。また以下、ネタバレを含みますのあらかじめご了承を。

あらすじ

ビートルズのコピーバンド・ファブフォーのメンバー4人がビートルズデビュー前の1961年(昭和36年)にタイムスリップしてビートルズより前にビートルズの曲でデビューしてしまうという物語。ファブフォーはメジャーになっていくかたわら本物の(?)ビートルズはどうなってしまうのかを基軸に展開し、歴史はもとに戻りストーリーエンド。

タイムスリップストーリー

書評などもみるとディテールにこだわりビートルズファンをいかに楽しませるかという点とビートルズのオリジナリティとはというテーマが根底にながれているように感じました。連載当時も賛否両論があるようですが私はビートルズはいったん置いておき、「タイムスリップ」という切り口からみてみました。タイムスリップを題材にした場合のテーマはだいたいこの2つ。

1.現在の知識(歴史も含む)を過去においてどのようにいかされるのか?
2.過去に介入した未来人があたえる歴史への影響は?

だいたいは未来から過去へのタイムスリップであって過去から未来にいったストーリーはほぼありませんので「未来から過去への」のみでみていきます。ドラえもんもそういう意味では当初は2.についても言及していましたがほぼ1.つまり道具のみ、で話しが成り立っています。映画バックトゥザフューチャーPart II.でビフが未来のスポーツ年鑑をつかってスポーツ賭博で大儲けをし大きく歴史を変えてしまうというのは簡単に思いつくタイムスリップストーリーですね。そんな中、「タイムスリップ」でこの2つの視点を扱い、いいなと思ったものを3つご紹介します。

映画「ファイナルカウントダウン」(Final Count Down)1980年公開

映画「ファイナルカウントダウン」(Final Count Down)

ファイナルカウントダウンといってもEuropeの「The Final Count Down」ではありません。1980年に公開された映画のほうで私はテレビの日本語吹き替えでみました。かなり繰り返して何度もみましたよ。

物語は米海軍の原子力空母ニミッツが竜巻に巻き込まれ1941年12月6日、つまり真珠湾攻撃の前日にタイムスリップしてしまうところから始まり、日本の2度目(ニミッツ乗員にとっては)の真珠湾攻撃を阻止しようとします。航空隊の指揮をとっていた中佐がこの時代の民間人議員秘書のローレルと孤島に残されてしまう。日本の航空隊への攻撃寸前にまた竜巻がおこり、航空隊を収容するが二人を残して未来へ帰っていくというあらすじ。

この映画の秀逸なところは攻撃中止命令が出た時にパイロットが「また日本にやらせるのかよ!」と叫ぶシーンと未来に帰ってきたときについてきてしまったローレルの愛犬チャーリーが退艦しようとすると出迎えにきた黒塗りのクルマに向かって一直線。ドアの中から女性の声で

「チャーリー!」

と懐かしそうに語りかけます。犬をひいていたマーティン・シーンが

「はじめまして」

とクルマをのぞきながら挨拶をするとそこには1941年に残された中佐とローレルだったというオチ。現代においては中佐はマーチン・シーンのボスで正体不明だったのですがこれで一挙に謎がとけていくというエンディングになります。

タイムスリップをして紆余曲折をへながらも元の世界に戻り歴史は変わらなかったという例ですね。

角川文庫「タイムスリップ大戦争」豊田有恒 著 1975年

角川文庫「タイムスリップ大戦争」豊田有恒 著 1975

グループ数名とか軍艦1隻というレベルではなく日本がタイムスリップしてしまうという壮大なスケールの物語。最初は1941年にタイムスリップ。日米開戦直前に日本が突然「いい子」になってしまい困ったアメリカが東京湾を奇襲するという立場を逆転する展開に。当初は歴史を知っている点や科学・工業力で圧倒的な力を発揮する日本が大戦を終わらせると次は「ペリー来航」の時代へ。さらに元寇など過去へ日本がどんどんさかのぼっていき当初のイケイケ日本がだんだんと暗い雰囲気に。しまいには恐竜時代へと・・・

歴史の改ざんという視点はあまりなくむしろ積極的に変えてしまうというどちらかというと「架空戦記」に近いと思います。九州の野球場でグラウンドにあらわれた元寇を王さんが一本足打法で撃退するなど時代を感じさせる面もあります。個人的には恐竜時代に近所でうろつく恐竜をご近所の人たちと狩りをして肉を持ち帰ったときに主人公が「何人か踏みつぶされたが知ったことではない」というシーンが記憶に残っています。時代がさかのぼりすぎると未来の知識も技術も役にたたないのでしょう。

角川出版「戦国自衛隊」半村 良 著 1971年

角川出版「戦国自衛隊」半村 良 著 1971年

戦国自衛隊というと角川映画のほうがイメージつきやすいかもしれませんがストーリーとしては原作のほうが圧倒的に上だと思います。映画のほうがはかなり重要な要素を排してエンターテインメントへ舵をきってしまいました。おかげで「続・戦国自衛隊」や「戦国自衛隊1549」などあまたの戦国自衛隊シリーズがつくられた功績は否めません。

戦国自衛隊の秀逸なところはそのタイムパラドックスの解。タイムスリップしたら知っている歴史と微妙に異なる。自衛隊員たちは武器と物資で戦国時代を生きていく。天下統一間近になるも現代装備や物資も乏しくなりかけたころ、京都の宿泊先の寺で反乱にあい殺されてしまう。その際に気が付く、ここは本能寺で自分は信長だったと。つまり変わろうとしていた歴史を修正してしまったという展開。あまたある架空戦記やかわぐちかいじ氏の「ジパング」も戦国自衛隊がなければ誕生していなかったかもしれません。

「僕はビートルズ」の感想

タイムスリップものはすでに知っている歴史を過去において「なぞる」「変更」するというすでに知っているあらすじを展開するという時代劇的な安心感があります。この点が賛否両論を招いているのではないでしょうか?私はビートルズファンではないのでこの点にはあまり違和感はありませんでした。

歴史を変えようと試みるメンバーの鳩村真琴とオリジナリティを追求する鷹津礼の対立軸は「ジパング」の草加拓海と角松洋介をほうふつとさせてました。途中まではそうしたメンバー間の葛藤もあり盛り上がったかにみえましたが海外デビューしたあたりからタイムパラドックスよりもより「ビートルズとはなんなのか」という点にシフトしたような気がします。

最後に「俺が知っている歴史は今日までなんだ」というセリフで終わるのですが歴史は変えてしまったがすでにファブ・フォーは忘れ去られているというのはさすがに腑に落ちない終わり方のような気がします。

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