桐生模型学校 その10 - ホビージャパン社員転売擁護について

ホビージャパン1986年8月号
ホビージャパン1986年8月号

ホビージャパン社員が転売擁護して大炎上ののち退職処分

先日、ホビー業界の最大手月刊ホビージャパンの編集者がTwitterで下記のようなツイートして大炎上していました。

転売を憎んでいる人たちは、買えなかった欲しいキットが高く売られてるのが面白くないだけだよね? 頑張って買えばいいのでは? 頑張れなくて買えなかったんだから、頑張って買った人からマージンを払って買うのって、普通なのでは。

かつて行われてた模型3割引き販売は普通の店舗には激烈に痛い。あんなことができるのは薄利多売の大型店舗だけ。HGを売って売って売りまくって200とか300とか売って粗利数万。しかもそんなに売れるのは主役機だけ。スケールなんてその1/100ぐらい?

ユーザー優先な状況が必ずしも良いとは限らない。

うーん…転売問題が難しいところは、転売されて困るのが一部のユーザーだけってことで、ものは売れてるからメーカーも小売りも問屋も売り上げがしっかり立つから、業界的には安泰なんですよ。逆にいつも買えて割引ガンガンのかつての状況って、店舗が死ぬので、業界へのダメージもデカいんです。

ん?? よくわかんない。転売して売れてるから、メーカーは潤ってるんじゃないの??

元社員のツイッターから引用

これが原因であっとうまに大炎上し、ホビージャパンは速攻で処分を下す結果に

ネット界隈ではすでにこの編集者を特定したり、処分の是非を問うような議論もされていましたがここではその内容ではなくホビー業界における転売屋がはびこる状況をまとめたいと思います。

ホビー業界特有の勘違い ー 世間の常識からずれている

転売イメージ

「転売」については「桐生模型学校その6 - 転売の構図と転売屋への対応」でもすこし語っていますが(その記事はこちら)ホビーアイテムという嗜好品におきやすい構造的な側面についてでした。商売をしている以上、思ったより売れたとか予想に反してまったく売れなかったなどは当然おきます。しかしながら恒常的に品薄感を出しているメーカー側にかなり責任があると思っています。ホビー業界では当たり前の慣習にその原因が垣間見えます。

「発売日(納期)を守らなくても大丈夫」という勘違い

前々から感じてはいましたがあらためてホビー業界から足を洗って他の業界に転職するとよくわかります。納品遅延は他の業界ではペナルティ、つまり違約金が発生してもいたしかたがないレベルですがなぜかホビー業界は発売日になっても納品される問いあわせると「発売が遅れています」のひとことで終了。かつてコナミがアムドライバーや武装神姫などを発売したときは発表どおりに発売されて「スゲェ」と思ったものです。

最近ではアマゾンや家電量販店など他業種参入があるせいか発売日はずいぶんと厳格にはなってきました。しかしそれでも他業種にくらべるとかなりルーズなのか変わりありません。海外生産のフィギュアやミニカーにいたっては1年延期なんてざらにあります。業界慣れしてくるとメーカー案内を見た瞬間に記載されている発売日に絶対入荷しないであろうと簡単に推測できてしまうレベルのものすらあるぐらいです。

発売がどのぐらい予定どおりにいかないかというと感覚的ではありますがその月に発売されるといわれていた商品が予定通りに入荷するのは半分ぐらいじゃないでしょうか?最近でこそ「発売延期」のアナウンスがされるようになったと述べましたが逆にいえばそれまでは何も連絡がなかったという状況なわけです。つまり仕入担当が問屋に問い合わせをしてさらに問屋がメーカーに確認する、販売店のスタッフが予約してくれたお客にその旨を連絡するという無駄な作業をさせていたことになります。日本の模型問屋なんて数えるぐらいしかないのに告知を怠っていたメーカーはいい加減といわざるを得ないでしょう。ひいては予約してくれる客にもなんら責任を感じていなかったのでしょうね。

このあたりの事情を理解していただいているお客様は納得してもらえましたが普段購入したことがないお客様だと怒りはじめる方もいらっしゃいましたね。しまいには予約をした店舗が悪いと感じる方もいらっしゃるようでした。メーカーの責任なんですけど。

「注文数が入った分を生産してなくても大丈夫」という勘違い

注文数どおりに入荷しない

ネット通販が主流になる前は入荷したら注文数より少ないということが事前連絡もなくおきるのが日常茶飯事でした。食玩ブームのころは「途中でコンビニがはねましたねー(注文がたくさんきた)」という理由でしれっと減数させられることも多々ありました。バンダイコレクターズ、特に超合金系のアイテム、なんかはかならず転売屋のターゲットになっています。しかもバンダイトイ事業部が超合金魂マジンガーZを発売したころから変わりありません。理由は「生産できない」とかいろいろといっていますがそのとおりなら20年近くも需要が読めない、生産体制がつくれないメーカーなんですねと評価されてしまうはず。食品業界では「生産が供給に追い付かず生産休止(あるいは生産終了)」なんてこともまれにあるぐらいですがホビー業界ではさにあらず。むしろ需要>供給の状態を調整しているとしか思えません。

注文数を集計した数字が当初の生産数より大幅に異なっているのであれば発売時期を調整してでもお客様に届けるというのが筋と思うのですがそうではないようです。再生産を前提にしているプラモデルは発売前に2回目入荷の案内があったりする場合がありますがフィギュア系はほぼ皆無です。このような体制で転売をするなといっても無駄。むしろ転売してくださいといっているようなものです。転売を徹底的にやめさせるためには安定した供給が一番の解決方法と思うのは私だけでしょうか?

「発売日に入荷する商品と2回目に入荷する商品の価値は同じである」という勘違い

バンダイの仮面ライダーベルトや戦隊ヒーローロボ、ガンプラ、タミヤのミニ四駆(今はブームがどうだかわかりませんが)などメーカー発売日に入荷する商品と2回目の入荷では価値が異なります。つまり早く入手できるという時間軸が転売を促進させます。特に2回目の入荷の時期が不明となればかっこうの餌食となるでしょう。不足が初回で生じた際に転売を鎮静化させるには2回目の供給情報が重要なはずなのにどこのメーカーも対応をほとんどしません。なぜなんでしょうかね?

仮に新iPhoneが初回入荷後、2回目は入荷はしますが時期はわかりませんといったらどうなると思いますか?

「商品情報(発売日や予約開始日など)はネットなどで告知しているのでみんな知っているはず」という勘違い

ホビー業界にいると勝手に商品情報が流れてきます。業界の人でもすべてを網羅するのは大変なぐらいの量です。ホビーに興味がある人でも情報をタイムリーにつかむのは難しいのではないでしょうか?さらに普段はホビーにかかわりのない一般客ならなおさらです。よく予約開始してから1か月後ぐらいにとっくに完売している商品を予約したいと来店されるお客様もよくお見かけしました。

では転売する方たちはどうでしょうか?お金を儲けようとするかたにとってはまず情報が命です。四六時中アンテナを張るのは当たり前です。そういう意味でホビー業界なみに情報をタイムリーにつかんでいることでしょう。こういう方たちと普通のお客が太刀打ちできるはずもありません。くだんのツイートに「予約すればいい」みたいな内容もあったと思いますがそもそも予約できないんです。

ホビー商品転売対策は?

メーカーの対応が最優先

転売が「需要」と「供給」そして「入手までの時間」という3つの要素で成り立つ以上、コントロールできるのはメーカーです。問屋や販売店ではありません。供給の少ない商品を販売店が転売されないように売り方を考えるべきというのは対処方法でしかありません。

  1. 供給を十分に行う
  2. 不足した場合の対応を柔軟に行う(発売延期や分納スケジュール告知)

の2点につきます。商品を発売する側としての責務として認識してもらいたいと思います。

消費者によるメーカーの評価をつける

発売時期の遅れや商品供給が十分でないメーカーをダメなメーカーであるという認識を消費者がもてばメーカーの対応はかわるはずです。よく「転売屋からは買うな」という発言がありますが「転売されるような商品をそのままにしておくメーカーの商品は買うな」といいたいところです。逆にきちんと対策をとっているメーカーは評価してあげるといいのかもしれません。「あそこはいい商品はだすんだけどねー」ではすまないようになってほしいものです。

オープン価格で販売する

流通全体(メーカー・問屋・販売店)で統一する必要があるかもしれませんが定価(希望小売価格)を撤廃して販売店が自由に価格設定するのはひとつの解決方法かと思っています。逆説的ではありますがこれで商品不足時の転売発生をずいぶんとおさえることができるのではないでしょうか。問題点としては

  • 販売店が転売屋なみの価格になるかもしれないという点
    → 自然淘汰していくと思います。転売屋と違って素性を明らかにしていますのでイメージダウンは長期的にマイナスになるから。
  • 価格設定に慣れていない、または面倒
    → ながらく定価と掛率で価格をきめているはずなので販売店側がいくらで売ったらいいかわからない。またいちいち市場価格をチェックできない。
      すべての商品ではなく特定のアイテムやジャンルに限定するのがベストかもしれません
  • 販売力のあるところがさらに購買力をつけてしまうという危惧
    → オープン価格は仕入価格も力のある問屋や販売店に有利になるのでますます寡占化がすすむのではないかという可能性

などがあげられるでしょう。ただメーカーの一部商品はすでにオープン価格にしているものもありますので可能性はゼロではありません。とくかく通常の販売店は定価以上のいわゆるプレ値はつけてはいけないという商慣習を守っているところがほとんどです。ここを撤廃することができれば当初は混乱してもメーカーから販売店・エンドユーザーまで大満足ではなくても納得はできるではないでしょうか?

まとめ

ホビージャパン社員による転売擁護炎上からいろいろと転売解決を考察してみましたがメーカーの責務が一番重いと思います。個人的にはホビージャパン創業者がまだ現役だったころに「〇〇君、売上はすべての免罪符なんだよ!」と力説していたことを思えばホビージャパンも随分と変わったとみるべきなんでしょうか。にわかには信じがたいものがあります。バイトテロとは違いますので退職処分も法的にどうかと思う部分もあります。

それよりももっと気になる点があります。それは

転売を撲滅したら業界の売上は上がるのか、それとも下がるのか?

どうも転売屋で売上を維持している側面も否定はできない。転売がなくなって売上が下がるようでは未来はないのかもしれませんね。

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